時たま、旅人

自称世界遺産ハンターが行く!旅好き会社員の備忘録

プランバナン寺院群 前編(ロロ・ジョングラン寺院とセウ寺院)

 

 

次に二つ目の世界遺産プランバナン寺院群を目指します。といってもこちらもアクセス至便なジョグジャカルタの近郊にありました。寺院は郊外東側の5km四方の史跡公園内外に無数に点在しているということなので今回もタクシーを利用しました。

 

まず、向かったのはプランバナン寺院群の中心とも言えるロロ・ジョングラン(痩身の乙女)寺院群です。仏教遺跡のボロブドゥール寺院遺跡群と並ぶジャワ建築の最高傑作の一つであることは疑いようもありませんが、こちらは古マタラム王国のバリトゥン王が建立したヒンドゥー教の遺跡。ボロブドゥールの仏教寺院と同じ7〜8世紀頃に建造されています。争い事の種と言えば、宗教的対立か領土問題と相場が決まっているというのに、この狭いエリアに別々の宗教を信仰する二つの王朝が同時に存在していたという事実に驚かされます。しかも、その両国が宗教の違いを超えて友好的に交流していたという記録が残されているそうなので驚きも倍増です。世界中のどこかしらでドンパチやっているのが普通になってきた現代人からしてみれば、なんとも寛容というか羨ましいというか理想的な状態ですよね。

 

ロロ・ジョングラン寺院群までは市内から20km弱、車で30分ほどかかりました。どっしりと安定したピラミッド型のボロブドゥール寺院に対し、ここではほぼ垂直に神殿がそびえ建っています。平原の中に突然現れたようにも見える8つの壮大な塔が天に向かってそびえ立っている姿は圧巻です。f:id:greenbirdchuro:20190623210013j:plain

 

発展途上国ではありがちなことですが、地元の人と外国人ではかなり入場料が違います。足元を見られているようでなんだかなぁ・・・ですが、世界遺産を愛するものとしては、遺跡の維持管理や修復にかかる費用はバカにならないだろうと納得する部分もありました。かつての姿を見て取り戻すべく1937年から修復作業が続けられていますが、16世紀の大地震からそのままでは?と思われる瓦礫が周囲に積み上がっていました。これを元通りにするとなると果たしてどれくらいの時間がかかることやら・・・。f:id:greenbirdchuro:20190623210011j:plain

 

西側の方が3つの神殿の全景が良く見えます。右側のブラフマー神殿左側のヴィシュヌ神殿23m中央にあるシヴァ神殿が最も高い47mです。そびえ建つという言葉がこんなにピッタリな建物もそうそうないんじゃないでしょうか。天を衝くように林立する様子は、痩身の乙女というよりも燃え盛る炎のようで、とても躍動感がありました。f:id:greenbirdchuro:20190624182019j:plain

 

東側からの眺望です。重なって並んでいるので全ての神殿を同時に撮影することは出来ません。3大神殿の手前にはそれぞれの神殿に向かい合う形での乗り物堂が配置されています。乗り物堂の中に祀られていたのは、それぞれの神様が乗る動物たちで、ブラフマー神は水鳥ハンサ、シヴァ神は牡牛ナンディー、ヴィシュヌ神は怪鳥ガルーダでした。ヒンドゥー教徒は聖なる生き物である牛に敬意を払い、決して食べないということはなんとなく知っていましたが、シヴァ神が乗っていると言われたら納得です。f:id:greenbirdchuro:20190623213856j:plain

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3大神殿の中でも42mの高さと34m四方の基壇を持つ中央のシヴァ神殿の存在感は圧倒的です。高さだけでなく積み上げられた火山岩の重量感が神殿に厚みを持たせていて、破壊と再生の神様の名にふさわしい威厳がありました。建物は人間界をあらわす基壇、人間と神のかかわりをあらわす堂、神々の住む天上界をあらわす尖塔の3つの部分で構成されていて、ヒンドゥー教の世界観が表現されています。でも、この構成は前日に見たボロブドゥール仏教寺院と似ていませんか?さらに頂部の形もストゥーパそっくりでデジャブかと思いました。f:id:greenbirdchuro:20190623210020j:plain

 

入り口の上部にいる魔除けのカーラもすっかりお馴染みです。シヴァ神殿以外の神殿や乗り物堂にも侵入者を威嚇するようにカーラが彫られていますが、見慣れてきたせいか怖さよりも親しみを覚えます。f:id:greenbirdchuro:20190623210024j:plain

 

神殿の壁面には、ヒンドゥー教の説話にまつわるレリーフがところ狭しと刻まれていました。これは、シバ神殿の外側の回廊に刻まれた古代インド叙事詩ラーマーヤナ」をモチーフにしたレリーフです。ラーマ王と彼の妻シーターの物語が絵巻物のように壁面に展開されています。f:id:greenbirdchuro:20190623210033j:plain

 

何よりも人物の表情が柔らかくも生き生きと描かれていて、これが石に彫刻されたものだとは思えません。繊細で精巧なこれらのレリーフの制作に費やされた時間や手間を想像するだけでため息がでます。強い信仰心がないとやってられなかったはず。f:id:greenbirdchuro:20190623210037j:plain

 

壁面のレリーフの中には願かけの木として知らるれカルパタルの木のモチーフもたくさんありました。カルパタルの木は、良いことも悪いことも全てを叶えてくれる願掛けの木だと言われています。まさに引き寄せの法則を体現したような木ですが、残念ながら天上界にある架空の植物。そんなカルパタルの木の下には様々な動物(?)がユニークな姿を見せてくれています。f:id:greenbirdchuro:20190623210043j:plainわたしなら思いつく限りの願をかけるだろうな・・・と思うとレリーフの猿に自分の姿を見たような気がして、他人(他猿)に思えなくなります。f:id:greenbirdchuro:20190623210051j:plain

 

神殿の階段を上がった先には回廊になっていて、ヒンドゥー教の神が祀られている東西南北の4つの聖堂にアクセスすることができるはずでした。が、2006年の大地震で甚大な被害を受けた以降の修復作業が思うように進んでおらず、今回は3大神殿とも回廊までしか入ることが出来ませんでした。リベンジのチャンスがありますように。f:id:greenbirdchuro:20190623213906j:plain

前日に見たボロブドゥール寺院とは宗教が違うので色々と違って当然ではありますが、同じように圧倒されっぱなしでした。

プランバナン寺院群の中でも最北端にあるセウ寺院には巡回バスで向かいました。f:id:greenbirdchuro:20190626144748j:plain


シャイレーンドラ王朝の王女とサンジャヤ王朝の王の結婚を記念して9世紀頃に建造された仏教寺院だそうです。「セウ」は数字の「千」を表しています。その名前からも多数の小寺院が無数に集まって巨大な寺院を構成していたことは想像に難くないのですが・・・目の前にあるのは瓦礫の山。避けて積み上げた瓦礫の作る塀が主堂に続く参道のよう見えなくもないですが、ほぼ廃墟となっていました。f:id:greenbirdchuro:20190624195925j:plain


入り口の両脇は神社の狛犬や沖縄のシーサーのように向かい合った2体のクペラ神(ドワラパラ)の像が守っていました。武装したクペラ神の愛嬌のあるビール腹を見てしまうとその厳つい表情がかえって微笑ましい。言っちゃあなんですが、門番というより恵比寿様の風体です。わたしのような侵入者に笑われてて門番が務まるのか・・・。f:id:greenbirdchuro:20190623214401j:plain

 

セウ寺院の主堂は、ロロ・ジョングラン寺院の神殿より小規模で少し形に丸みを帯びています。主堂の周りを埋め尽くす瓦礫の山は249基あったとされる小祠堂のものと思われますが、絶賛修復中のため敷地内に立ち入ることはできません。入れたとしても今にも崩れそうな瓦礫のせいでおちおち見ることも出来なかったことでしょう。現状を知っているのか、わたし以外の他の観光客の姿もなく・・・、中に入れなかった残念さと廃墟と化した偉大な遺跡の姿に切なさを覚えながら、早々にセウ寺院を後にしました。f:id:greenbirdchuro:20190623214403j:plain

 

プランバナン寺院群はまだまだ続きます。

 

 


 

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