時たま、旅人

自称世界遺産ハンターが行く!旅好き会社員の備忘録

密林に覆われていたボロブドゥール寺院遺跡群

 


 

ジョグジャカルタへ来た目的は2つの世界遺産を観光すること。まず1つ目、カンボジアアンコールワット遺跡群やミャンマーバガン遺跡群と並ぶ世界三大仏教遺跡の一つであるボロブドゥール寺院遺跡群を目指すことにしました。

 

目指すとは言ってもボロブドゥール寺院はジョグジャカルタの近郊にあり、市内からはバスでも行けちゃいます。個人でもハードルは全く高くありません。ただ、今回は朝日に照らされた密林の中のボロブドゥール寺院を見るというミッションのためタクシーを利用することにしました。

 

夜明け前にホテルを出発したタクシーは1時間30分弱でSetumbuの丘の麓に到着しました。Setumbuの丘は寺院から西に5㎞離れたサンライズスポットです。

丘の頂上まで登るのはちょっとした登山。サンライズ目的の観光客が黙々と急坂を登っていきます。案の定・・・丘の上はシャッターチャンスを狙う観光客の場所取り合戦が始まっていました。こんな時、出遅れた小柄な東洋人が正攻法では対抗できないことは嫌というほど経験済み。大柄な外国人の前に裏技「滑り込み」で場所を確保しました。相手は視線もカメラもわたしより遥か上方だし、大きい=優しいというわたしの思い込みが当たっていたらしく気にも止められませんでした。f:id:greenbirdchuro:20190623115538j:plain

 

空がピンク色に染まり、ジャワ島の密林が浮き上がってきました。f:id:greenbirdchuro:20190623093625j:plain

 

日が完全に昇って、改めて気がつきました。今日、曇りじゃん!深い朝霧がさっきまで見えていた密林さえも覆い隠してしまいました。しばらくの間、他人が指差す方向に寺院のシルエットを探して右往左往しましたが、なんとかその姿を捉えることが出来ました。朝霧の切れ間から見えているのは密林の中にひっそりと佇む世界最大の仏教遺跡ボロブドゥール寺院の最上階のストゥーパだと思いますが・・・。f:id:greenbirdchuro:20190622085455j:image

 

長いこと待ってもこれ以上の景色は望めそうにありません。ここは潔く諦めてボロブドゥール寺院に向かうことにしました。更に車で15分ほどです。

 

寺院東側から入ると朝靄の中に一直線に伸びた参道が浮かび上がり、その先に巨大な仏教寺院の一部が見えてきました。頂上のストゥーパの特徴的なシルエットを見ると、丘の上から見たものが幻ではなかったことがわかります。密林の中にあたかも忽然と現れたように感じますが、実際にこの寺院は1000年以上も密林の中に埋もれていました。それにしても、まだ早朝なのにかなりの先客が参道を歩いていました。f:id:greenbirdchuro:20190623093701j:plain

 

参道から続く階段を上っていくと寺院の正面が見えてきました。想像以上に巨大な遺跡で、正面像をフレームに収めることはできません。こんなものが1000年以上も見つからなかったなんて信じられませんが、1814年に発見されるまで文字通り埋もれていて山や丘だと認識されていたようです。イスラム教徒による破壊を恐れてあえて埋めたという説もありますが、ムラピ山の火山灰に埋もれてしまった説が有力のようです。f:id:greenbirdchuro:20190623144751j:image

 

一枚の写真に収めるのは無理そうなので色々な方向から撮影することにしました。f:id:greenbirdchuro:20190623093800j:plainf:id:greenbirdchuro:20190623093831j:plainf:id:greenbirdchuro:20190622085544j:image

 

ボロブドゥール寺院が建造されたのはシャイレーンドラ王朝の時代で7〜8世紀頃と考えられています。寺院とは言ってもその内部には空間がありません。一辺が約120mの基壇の上に5層の方壇と3層の円壇が階段状に積み重なって、まるでピラミッドのような構造となっています。その3層構造が仏教の三界を表していると考えられていて、下から上へ基壇(欲界)方形壇(色界)円壇(無色界)と登っていくことは悟りをめざす菩薩の修行を表現しているそうです。f:id:greenbirdchuro:20190623150157p:image

 

それでは、わたしも悟りを開いてみようと思います。

まず、基壇は、食欲・物欲・淫欲・・・あらゆる欲にまみれたわたしたち人間が暮らす欲界を表しています。そこに彫られたレリーフが表現するの悪因応報の戒め。このレリーフは、悪口や噂話をすると人間の醜い心が顔に現れるという戒め「悪い顔」です。確かに人々の顔が歪んでいますね。気を付けなければ・・・。f:id:greenbirdchuro:20190623094659j:plain

 

方形壇の表す色界では、あらゆる欲のうち物欲だけが残っていて、いわば天上界と人間界の中間です。第1~第4回廊はボロブドゥール寺院の最大の見どころになっています。仏教経典をテーマにした1400以上ものレリーフが刻まれていて、その登場人物は1万人以上!特に上下左右に4つの物語が同時展開する第1回廊に描かれたブッダの生涯はあまりに有名です。

 

物語は、ブッダが地上に降臨する前からスタートします。釈迦族の王妃である摩耶のもとに王子シッダールタとして誕生したブッダ。立派に成長し、結婚し、恵まれた生活を送っていましたが、王宮の東西南北の四つの門から出掛けると「老人」「病人」「死人」に出会って人生の苦しみを目のあたりにしてしまいます。最後の門で「僧侶」と出会ったことで出家を決意した彼は厳しい修行に身を投じます。6年に及ぶ苦行の後に、菩提樹の下で悟りを開きブッダ(目覚めた人)になり、最初の説法を行ったところでこのレリーフは完結です。

 

遭難船の商人を身を挺して助けるウミガメが描かれています。ウミガメはブッダの前世の姿です。f:id:greenbirdchuro:20190622085554j:image

当時のインドの慣習に従い、出産のために馬車で故郷のルンビニ園に向かう摩耶夫人。f:id:greenbirdchuro:20190623094708j:plain

ブッダの結婚生活でしょうか。f:id:greenbirdchuro:20190623094711j:plain

出家を決意し、自分で髪を切るブッダとその髪を受け取る帝釈天f:id:greenbirdchuro:20190623094727j:plain

あらゆる誘惑が修行を邪魔しようとします。美女に扮した悪魔の誘惑もその一つ。f:id:greenbirdchuro:20190623094737j:plain

6年ぶ及ぶ苦行で弱ったブッダスジャータのふるまう乳粥で鋭気を養う様子。f:id:greenbirdchuro:20190623094731j:plain

動物が登場する寓話のレリーフもありました。あらかじめ屋根を造った猿は雨をしのげるが、そうでない怠け者の猿は・・・アリとキリギリスですね。f:id:greenbirdchuro:20190623094721j:plain

 

第1回廊から第4回廊には各方角に向かって配置された432体もの仏座像がありました。経年劣化のせいなのかムラピ山の噴火のせいなのか首のないものも多くありましたが、保存状態の良いものを見ると、一体一体の表情が違うことがわかります。f:id:greenbirdchuro:20190623094025j:plainf:id:greenbirdchuro:20190623190756j:plain

 

第4回廊から無色界を表す円壇の入口には、カーラのアーチが設置されています。カーラは何でも食べてしまう食いしん坊の神様。カーラの口を通るとわたしたちの過去の悪事諸々まで飲み込んでくれるそうです。ここは何回でもくぐっときましょう。f:id:greenbirdchuro:20190623204501j:imagef:id:greenbirdchuro:20190623093934j:plain

 

カーラのアーチをくぐり抜けると一気に視界が開けてきました。これまで見てきた基壇や方形壇とは全く雰囲気の異なる円壇に到着しました。円壇が表すのは欲とは無縁の天上界。ボロブドゥール寺院のシンボルとも言える釣り鐘形のストゥーパ(仏塔)が、3層にわたって72基も林立している様はまさに圧巻です。

 

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中には仏像が露出したストゥーパもありますが、切窓からストゥーパの中を覗くとそれぞれに仏像が安置されていました。ストゥーパの切窓は、下の2層が菱形、上層が正方形になっていました。菱形が表すのは不安定な俗界の人の心正方形は安定した賢者の心を表しています。そして天を衝くように頂点に建つ大ストゥーパには窓さえありません。これは無の世界を表しています。大ストゥーパの中は見ることができませんが、本当に空っぽなんだそうで、徹底して大乗仏教の神髄「無」を表現しています。というところで、わたしもいよいよ悟りの境地にたどり着いちゃったみたいですね。f:id:greenbirdchuro:20190622085540j:image

 

ボロブドゥール寺院から出たところにはちょっとした軽食屋さんがありました。午前3時台の出発の人が多かったせいかここで朝食を食べている人もチラホラ。f:id:greenbirdchuro:20190623094150j:plain

 

帰り道にチラ見したのはボロブドゥール寺院から3㎞ほど離れたところにあるムンドゥ寺院。ボロブドゥール寺院と同時期の8世紀頃に建てられたにしてはとても良い保存状態です。小規模な仏教寺院ですが、外壁や基壇に刻まれたレリーフの美しさが印象的でした。f:id:greenbirdchuro:20190622085500j:image

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