時たま、旅人

自称世界遺産ハンターが行く!旅好き会社員の備忘録

アルハンブラ宮殿 前編

早起きが続きます。

常に大行列が出来るアンダルシアの観光スポットの中でもアルハンブラ宮殿http://www.alhambra-patronato.es)は断トツに混雑します。1日の入場制限がある上、最大の見どころであるナスル朝宮殿に至っては個別に指定された見学時間にしか入場できません。翌日は帰国予定だし、ここまで来てアルハンブラ宮殿に入れないとかありえないので、ぬかりなく事前にチケットの予約をしておきました。

入場チケット公式予約サイト:https://tickets.alhambra-patronato.es/en/

 

キリスト教国のレコンキスタによって13世紀の半ばにはイベリア半島に残されたイスラム教国は グラナダだけになっていました。ナスル朝を開いた賢王ムハンマド1世は、グラナダを王都とし、巧みな外交政策で独立を保ちながら王国の発展に尽力してきました。そして、豊かに栄えるグラナダの市街地を見下ろす丘の上にアルハンブラ宮殿の建設を始めたのです。歴代の王によって着々と建設が進められ、完成したのはムハンマド5世の治世。イスラム芸術の結晶とも言える美しい宮殿は、人々をして「王は魔法を使った」と言わしめたほどでした。しかし、栄華を極めたグラナダ王国もレコンキスタに抗いきれなくなり、1492年にアルハンブラ宮殿は陥落。最後の国王ボアブディルはイサベル女王に宮殿を明け渡して、惜別の涙を流しながら北アフリカに逃れたそうです。

 

街の中心部からアルハンブラ宮殿へはバスも出ていますが、少しでも混雑を避けたくて、まだ暗いうちにホテルを出発しました。

 

宮殿入口まで20分ほど続くゴメレス坂を上り始めると、前方にわたしと同じくアルハンブラ宮殿を目指していると思しき同志の姿を発見しました。今の同志は数時間後のライバルです。あわよくば追い越してしまおうと思いましたが、わたしの純日本人的長さのコンパスでは勝負にならなさそう。日本人の最大の武器「勤勉さ」をもって臨んだ早起き勝負では既に敗北を喫しています。人は人、急がば回れ、金持ち喧嘩せず・・・この状況とはどんどんかけ離れていく格言で自分を納得させつつ出遅れないようについていくしかありません。f:id:greenbirdchuro:20190818092854j:plain


ゴメレス坂を登りきったところにザクロの門が見えてきました。いまや都会では幻の果実となりつつあるザクロはスペイン語でグラナダを表しています。ザクロの硬い果実が開いている様子を難攻不落だったグラナダの陥落に例えているんだとか。このエピソードからも、この門を造ったのはイスラム教徒ではないことがわかりますが、レコンキスタでの勝利を祝って1536年にこのザクロの門を造ったのはカルロス5世でした。f:id:greenbirdchuro:20190818000852j:image

 

ザクロ門の先もまだまだゴメレス坂が続きます。左手には宮殿を取り囲む城壁がずっと続いていて、入口はまだまだ先です。f:id:greenbirdchuro:20190818100303j:plain

 

先を急ぐわたしの左手に突然現れたのがビブランブラの門です。森の中に建っていて、城壁とは連続しない不自然な場所ですが、もともとは旧市街のビブランブラ広場近にあったメディナの入り口だったそうです。一旦は、取り壊しが決まって撤去されたものの、やっぱり保存しようということになってこの場所に再構築されました。本来の場所とも役目とも違う寂しい場所だけど、取り壊されなくて良かったですね。f:id:greenbirdchuro:20190818100308j:plain

 

Web予約していたチケットを受け取るために宮殿の東の外れにあるチケットセンターに着いたのはちょうど日が昇り始める頃でした。すでに大行列が出来始めていますが、早起きは3文の得を実感するキレイな朝焼けです。この格言はぴったりです。f:id:greenbirdchuro:20190818100311j:plain

 

チケットセンターで、旅の恥はかき捨ててお決まりの記念撮影。f:id:greenbirdchuro:20190818110207j:plain

 

メインエントランスから観光をスタートします。f:id:greenbirdchuro:20190818112838j:plain

 

レアル通りを歩いていくとアルハンブラ・サンタ・マリア教会が見えてきました。宮殿内の建物の中でレコンキスタ後にキリスト教徒によって建てらた建物はカルロス5世宮殿とこの教会だけ。スルタン達が暮らしたアルハンブラ宮殿を見下ろすこの場所に、ムハンマド3世が建てたモスクを取り壊して建てられたことからも、キリスト教徒の優位性を示すカトリック両王の意図が伺え、なんとも興味深いですね。f:id:greenbirdchuro:20190818111157j:plain

 

ルネサンス様式の装飾が施されたファサードはカルロス5世宮殿のものです。63m四方の正方形をしたルネサンス様式の建物は、イスラム建築が特徴的なアルハンブラ宮殿に中にあっては、無機質に感じられ明らかに浮いています。1527年の着工から1957年の完成まであまりに時間がかかりすぎているので、王とその家族のための生活の場という本来の目的はほとんど果たせなかったと思われます。工事期間が長かった理由も、資金不足や反乱や諸々・・・といったヨーロッパあるあるです。f:id:greenbirdchuro:20190818121003j:plain

 

宮殿の中は、円形の中庭をたくさんの列柱が取り囲むがらんとした構造になっています。あらゆる困難を乗り越えて最後までやり遂げたことは評価しますが、長い期間をかけた割に・・・と思わないでもありません。ルネサンス様式で唯一とされる円形の中庭の存在で、辛うじて価値を見出すことが出来たかなと言ったところ。2階はアルハンブラ宮殿で発掘された出土品を展示するアルハンブラ美術館になっています。f:id:greenbirdchuro:20190818120959j:plain


アルカサバのあるエリアへの入口にあるぶどう酒の門は、ムハンマド2世の時代に造られたアルハンブラの中で最も古い建物の一つです。二連アーチ付きの窓の下のレンガ製アーチの上部は多彩色モザイクで美しく装飾された典型的なイスラム様式です。f:id:greenbirdchuro:20190818111023j:plain


門の先にあるアルカサバは、ローマ時代の砦をもとにキリスト教国から都を守るために築かれた要塞です。アラブの軍事技術を結集した要塞の歴史はアルハンブラで最も古い9世紀までさかのぼります。興味はあったのですが、ナスル朝宮殿の入場時間が迫っているのでここは先を急ぐことにします。f:id:greenbirdchuro:20190818000836j:image

 

いよいよ、ナスル朝宮殿に入っていきます。内部が、メスアール宮・コマレス宮・ライオン宮に分かれたアルハンブラ宮殿で一番の見どころだけあって、なんと入場時間が30分刻みに決められており、30分すぎると入場さえできないというスペインらしからぬ時間厳守のエリアです。f:id:greenbirdchuro:20190818124742j:plain

 

メスアール宮から始まるナスル朝宮殿観光で、最初に足を踏み入れるのがメスアールの間です。アルハンブラ宮殿に現存する建物の中で最も古い部屋で、政治・裁判の場として使用されてきました。中二階のように見えるのは、レコンキスタ後に礼拝堂として使われた時の聖歌隊席ですf:id:greenbirdchuro:20190818131252j:plain


色鮮やかなモザイクタイルの壁もカワイイですが、何と言ってもイスラム建築の真骨頂は天井にあります。イスラム様式らしい細密な模様の木組み天井は一部がオリジナルなんだそうです。f:id:greenbirdchuro:20190818124745j:plain

 

壁の漆喰装飾のアラベスク模様も見事です。大味なカルロス5世宮殿の後だけに、部屋の隅々までびっしりと施された装飾に安堵さえ覚えてしまいます。アンダルシアを旅していると段々とすき間恐怖症になっていくみたいですね。f:id:greenbirdchuro:20190818124753j:plain

 

祈祷室の壁の透かし彫りの窓の下には、馬蹄形アーチの窓が並び、その向こう側にはアルバイシン地区の美しい街並みが広がっています。f:id:greenbirdchuro:20190818124756j:plainf:id:greenbirdchuro:20190818124759j:plain

 

来訪者の控室だった黄金の間の壁には、もともと金箔が施されていたそうです。天井の細かな木組み細工に残る金装飾にその名残を感じます。セビリアのアルカサルの大使の間と同じく、謁見に訪れた大使たちに圧倒的な力を見せつけるためと思われます。f:id:greenbirdchuro:20190818125232j:plain

 

メスアールの間の隣には、メスアールの中庭があります。中央に大理石の噴水(あまり清潔ではなかったので自粛)が設置された白壁の明るい空間は、四方を建物で囲まれています。コマレス宮に続く前方の壁には、色鮮やかにタイル装飾で縁取られた2つの青銅の門が並び、門の周囲はアラベスク模様の漆喰細工で埋め尽くされています。f:id:greenbirdchuro:20190818125235j:plain

 

アルハンブラ宮殿といえば、アラヤネスの中庭の水面にコマレス宮のコマレスの塔が鏡写しになっているこの光景を思い浮かべる人も多いはず。アラヤネスの中庭の名前は、池の両側に並ぶ刈り込まれたアラヤネス(天人花)という植物に由来しています。水鏡に映る堂々としたコマレスの塔は、50mの高さがあります。f:id:greenbirdchuro:20190818000830j:imagef:id:greenbirdchuro:20190818135050j:plain

 

中庭に面した柱廊の両端にあるアルコーブにもぬかりはありません。アーチにはアラベスク模様、天井には鍾乳石飾りが施されています。確かに鍾乳洞のように見えます。f:id:greenbirdchuro:20190818140217j:plain

 

コマレスの塔の中に入ると、天井が船底の形をしていることバルカの間と呼ばれる細長い部屋がありました。大使の間に続く控室だったそうですが、寄木天井の細かな幾何学模様がとても美しいですね。f:id:greenbirdchuro:20190818135536j:plainf:id:greenbirdchuro:20190818135456j:plain

 

コマレス宮の最大の見どころである大使の間は、宮殿の中で最も広い部屋です。星空をイメージしたデザインがかわいらしい木組天井と壁一面に刻まれた漆喰細工、透かし彫りの窓・・・どれをとっても見事の一言に尽きます。諸国の大使が王に謁見するための部屋で、この場所でイサベル女王に謁見した人物の1人がコロンブスです。長い時を経て、歴史の名場面に立ち会っているような感動を覚えます。f:id:greenbirdchuro:20190818000902j:image

 

ほとんど天井しか写ってないじゃないかと思われそうですが、それ以外がどうなっているかというと・・・人人人・・・カオスです。入場時間を制限したところで、出場時間が決まっているわけではないので、見どころに人が溜まっていく一方。f:id:greenbirdchuro:20190818141508j:plain

 

ライオン宮に続きます。

 

旅名人ブックス64 アルハンブラ宮殿

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NHK 探検ロマン世界遺産 アルハンブラ宮殿 (講談社 DVDBOOK)

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  • 作者: 寺井友秀(チーフ・プロデューサー),「探検ロマン世界遺産」取材班
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