時たま、旅人

自称世界遺産ハンターが行く!旅好き会社員の備忘録

アルハンブラ宮殿 後編

ナスル朝宮殿の最後を締めくくるのが、ライオン宮。なんと、王以外の男性は立ち入り禁止のハーレムだった場所です。国や文化や宗教が違ってもどこにでもあるもんですね・・・。そのライオン宮のハイライトがライオンの噴水を中央に配したライオンの中庭です。中庭をとり囲むように廻らされた柱廊は、キリスト教の建物にありそうな回廊になっていて、さらにその回廊の周囲をアベンセラヘスの間・諸王の間・二姉妹の間といった王のプライベートな居住スペースが取り囲んでいます。f:id:greenbirdchuro:20190818162030j:plain

 

中庭に面した回廊には124本もの大理石柱が森か林のように並んでます。柱の上部のアーチ部分に施された精細な漆喰細工は実に見事です。f:id:greenbirdchuro:20190818000833j:image

 

実は、運悪く修復工事中だったライオンの中庭。工事機材やパーテーションを避けて写真を撮るのが精一杯でした。中庭の中央には、円形に配置された12頭のライオンが大きな水盤を支える噴水がありました。このライオンの噴水は水時計になっていて、水を噴き出すライオンの数で時間を表わしているそうです。もう使われていないのか、それとも単に工事中のせいなのかライオンの口から水が出ている様子を見ることはできませんでした。見た目のかわいさははライオンというより仔犬でしたけど。
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中庭の南側にあるアベンセラヘスの間の一番の見どころは、ムカルナスと言われる無数の鍾乳石状の繊細な装飾がびっしりと施された16角の星型天井です。まさに、満点の星空の下にいるようで、息をするのを忘れるほどの美しい空間です。ところが、お洒落な響きすらするこの部屋の名前が、この場所で惨殺された豪族アベンセラヘス一族の家名に由来すると知ると一気に現実に引き戻されます。なんでも、一族の長男が王の愛妾と密通して、ボアブディル王の逆鱗に触れたとか。そりゃあ、お咎めなしというわけにはいきませんけど、一族皆殺しはやり過ぎな気がします。f:id:greenbirdchuro:20190819002307j:image

 

壁の上部にはびっしりとアラベスク模様が描かれ、二連アーチの内側にまで色漆喰の細工が施されています。アーチの奥に見える天井の木組細工もなかなかのものです。ここで陰惨な出来事があったとは信じられませんが、飛び散った血がこの細かな色漆喰の隙間に残っているかもしれません。何しろ中庭まで血で染まるほど凄惨な処刑だったそうですから。ちなみに、惨殺を命じたボアブディル王は、アルハンブラ宮殿をイサベル女王に開城したナスル朝のラストエンペラーです。f:id:greenbirdchuro:20190818162631j:plain

 

 王の寝室であった諸王の間は、修復工事中で入ることができませんでした。閉ざされた部屋の前に掲げられた看板情報によると、偶像崇拝を禁ずるイスラム教では珍しく、諸王の間の天井にはナスル朝の10人の王を描いた革絵があるそうです。ライオン宮を造ったムハンマド5世は、カスティーリャ王国のペドロ1世と懇意にしていたそうですから、キリスト教国がイスラム芸術の影響を受けてムデハル様式を生み出したのとは逆パターンで、イスラム教国もキリスト教文化の影響を受けていたことがうかがえます。f:id:greenbirdchuro:20190818162816j:plain

 

前室を見れば、諸王の間がいかに手の尽くされた豪華な部屋だったかがわかります。アーチ型の壁で細かく仕切られた前室の天井にも見事な鍾乳装飾が施されていました。f:id:greenbirdchuro:20190818162812j:plain

 

ライオンの中庭の北側にある二姉妹の間は、部屋の中央にそっくりな大理石の敷石があることから名付けられたそうです。床から天井までびっしりと施された壁装飾の空間は、アベンセラヘスの間に劣らず圧巻です。おぞましいエピソードも無さそうですし。f:id:greenbirdchuro:20190818163138j:plain


天井もアベンセラヘスの間と同じムカルナスです。透かし彫りが施された二連アーチの窓から差し込む柔らかな光が、数種類の基本タイルだけを何千片も組み合わせて造られた立体的な丸天井を神秘的に照らしています。f:id:greenbirdchuro:20190819002317j:image

 

二姉妹の間の奥には、リンダラハのバルコニーがありました。装飾で埋め尽くされた壁にある二連アーチの窓の外には緑豊かなリンダラハの中庭を望むことができます。窓の上部を縁取るように神とムハンマド5世への賞賛と詩が文字装飾で刻まれています。ちなみに、囚われの身だった二姉妹ソライダとリンダラハが、この出窓から中庭を見下ろしたという言い伝えがこのバルコニーの名前の由来です。となると、二姉妹の間の名前が大理石の敷石から名付けられたという話もなんだか怪しくなってきます。
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リンダラハの中庭を見下ろすと、中央に設置された噴水を取り囲むように大きな糸杉の木とキッチリと剪定された植栽が幾何学模様に配置されています。1626年に設置された噴水の水盤はもともと黄金の間にあったものだそうです。部屋の中に噴水を造るなんて違和感がありますが、砂漠の民の水に対する強いこだわりを感じます。アルハンブラ宮殿に入ったキリスト教徒も違和感を感じたからこの中庭に噴水を移したのかもしれません。杉以外にもアカシア、オレンジ、ツゲなとが植えられていて、この季節でなければもっと彩のある風景が楽しめたはずです。
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中庭のまわりに廻らされた渡り廊下の先にはアメリカの作家ワシントン・アーヴィングが「アルハンブラ物語」を執筆した部屋がありました。f:id:greenbirdchuro:20190818163540j:plain

アルハンブラ物語 (講談社文庫)

アルハンブラ物語 (講談社文庫)

 

 

 渡り廊下から見えるアルバイシン地区の街並みです。アンダルシアの青空に映える白い街並みが壮観です。f:id:greenbirdchuro:20190818163720j:plain

 

ナスル朝宮殿を見終えて出口へ向かうとパルタル庭園の中に建つパルタル宮が見えてきました。池に鏡写しになった1階部分の華奢な五連アーチと貴婦人の塔の佇まいがとても上品です。ナスル朝時代、アルハンブラ宮殿の中で最も古い歴史のあるパルタル宮殿の周囲には貴族の宮殿や邸宅が建ち並んでいました。f:id:greenbirdchuro:20190818163855j:plain

 

緑のアーチの向こうには、緑の額ぶちで切り取った絵画のようにサンタ・マリア教会の鐘楼が青空を衝いてそびえています。17世紀に教会に建て替えられるまでは、この美しい絵画の中に君臨していたのはモスクだったはずです。f:id:greenbirdchuro:20190818164130j:plain

 

最後は、チノス坂を挟んで少し高台の太陽の丘にあるヘネラリフェです。下の庭園と呼ばれる広大な庭園を通って離宮に向かいます。果樹園を整備して造られた美しい庭園の糸杉に囲まれた通りを歩くのはなんとも楽しい気分でした。f:id:greenbirdchuro:20190819160505j:image

 

アルハンブラ宮殿とアルバイシン地区の街並みを見渡すこともできます。f:id:greenbirdchuro:20190818165706j:plainf:id:greenbirdchuro:20190818165711j:plain

 

ヘネラリフェは、14世紀初め頃にムハンマド3世によって建築された夏の離宮で、歴代の王達が休暇を過ごした水の宮殿とも呼ばれる場所です。アルハンブラ宮殿でも屈指の見所なのでナスル朝宮殿と同様に入口でチケットのチェックがあります。f:id:greenbirdchuro:20190818164359j:plain

 

入場してすぐに、ヘネラリフェ一番の見所であるアセキアの中庭が見えてきました。水路・掘割を意味するアセキアの名に相応しく、長方形の中庭の中央には細長い池が配置されています。水路の上に噴水の描くアーチがなんとも涼しげです。中庭の西側には壁の上部に漆喰細工が施されたアーチのバルコニーが廻らされています。f:id:greenbirdchuro:20190818164431j:plainf:id:greenbirdchuro:20190818164435j:plain

 

バルコニーのアーチの向こうにはアルハンブラ宮殿とアルバイシン地区が広がり、左右どちらを見ても美しい景色を望むことのできる贅沢な場所になっています。f:id:greenbirdchuro:20190818165043j:plain

 

アセキアの中庭の隣はスルタナの中庭です。スルタナの中庭(糸杉の中庭)の中央にはアラヤネスの生け垣に囲まれた池があり、さらにその池の中に石の噴水のある小さな池があります。ボアブディル王に処刑されたベンセラヘス一族の長男が王の愛妾が逢瀬を重ねたのはこの中庭にある古い糸杉の下だと言われています。f:id:greenbirdchuro:20190818164853j:plain

 

控えめな姿ながらも絶え間なく涼やかな音をたてる噴水は、シエラ・ネバダ山脈の豊富な雪解け水を利用したもので、自然の高低差を利用して噴き出しているそうです。目を閉じればマイナスイオンの音がしてきそうな癒しの空間です。相手さえいれば、わたしもここで逢引してみたいものです。処刑は勘弁ですが。f:id:greenbirdchuro:20190819204440j:plain

 

スルタナの中庭から月桂樹の葉で囲まれ石の階段を通って上の庭園に行くことができます。眼下にはアセキアの中庭のアーチ回廊があり、先ほどよりさらに高い場所からアルハンブラ宮殿とアルバイシン地区の街並みを眺めることができます。これだけ宮殿から離れていれば、逢引が王にバレるとは思ってなかったのでしょうね。f:id:greenbirdchuro:20190818165308j:plain

 

緑のトンネルを通って出口に向かいました。もっとじっくり見たい気持ちもありましたが、何しろ明け方から歩きっぱなしで、体力も空腹も限界だったので・・・。帰りはヌエバ広場まで下り坂が続きます。
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ダロ川のほとりのトリステス通りから見上げたアルハンブラ宮殿です。正面にそびえているのがコマレス宮のコマレスの塔ですね。建て増し感満載の宮殿の外観はむしろ無骨なくらいですが、その内部にはイスラム芸術の最高傑作が目白押しでした。f:id:greenbirdchuro:20190818170204j:plain

 

ついでに2008年に亡くなったフラメンコの神様マリオ・マヤの像と記念撮影。恥ずかしさを堪えながら精一杯真似てみましたが、フラメンコにもフラダンスにも程遠い仕上がりになってしまいました。f:id:greenbirdchuro:20190818170441j:plain

 

NHK 探検ロマン世界遺産 アルハンブラ宮殿 (講談社 DVDBOOK)

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