セビリア大聖堂とヒラルダの塔
トリウンフォ(勝利)広場の北側には、ゴシックとルネサンスの建築様式が混合した壮大なセビリア大聖堂(カテドラル)が建っています。「後世の人に正気の沙汰ではないと思われるような大聖堂を建てよう」というキリスト教会らしからぬ発想のもと、15世紀から約120年もの歳月をかけて建造されました。世界でもヴァチカンのサンピエトロ寺院、ロンドンのセント・ポール大聖堂に次ぐ規模で、当然ながらスペイン最大規模です。レコンキスタ以前に建っていた巨大なモスクの跡に建てられたものなので、長い身廊と翼廊による十字型をした一般的な大聖堂と違って、奥行116m・幅76mという幅広の長方形をしています。もちろん、大きすぎて地上からはわかりません。
コルドバのメスキータほど丸見えではありませんが、良く見るとモスクの名残を見つけることができます。この大聖堂のシンボルとも言える高さ98mのヒラルダの塔でさえ、かつてのモスクのミナレットを転用したものです。
トリウンフォ広場に面した南側のサン・クリストバルの扉から大聖堂に入場します。ゴシック様式の門の前で迎えてくれたのは、人々からヒラルディーヨと呼ばれる巨匠バルトロメ作の「信仰の勝利像」。右手に盾・左手に椰子の葉を持った女神像で、同じものがヒラルダの塔の頂から街を見守っています。
高い天井と奥行のある空間の身廊を大きく占める内陣と聖歌隊席、身廊の南北にそれぞれ2列ずつある側廊と壁に沿って並ぶ礼拝堂や聖具室の数々・・・長方形の聖堂内が思ったより複雑で初っ端から方向感覚を失いかけています。
聖堂に入ってすぐのところにあったコロンブスの墓。棺を担いでいる4人の人物は、恐れ多くも当時のスペインを構成していたレオン・カスティーリャ・ナバーラ・アラゴン王国の4人の王。コロンブスがどれほどの英雄だったかがうかがえますね。前列右側の王の槍先には球状の何かが突き刺さっていますが、これはスペイン語でグラナダを表すザクロの実。グラナダからイスラム勢力を追いやったレコンキスタの成功を意味しているんだそうです。
コロンブスの墓のすぐ後方にある聖杯の礼拝堂の祭壇には、キリストの磔刑像がありました。木の神と呼ばれた名匠マルティネス・モンタニェスによるの作品だけあって肉の削げた体のラインがなんともリアルです。
聖杯の礼拝堂の奥には聖杯室があります。聖杯室の正面にはセビリア出身の画家フランシスコ・デ・ゴヤの聖フスタと聖ルフィナが飾られていました。2人は姉妹で、ローマ司祭に命じられた異教礼拝のための供物制作を拒んだため殉教した3世紀の陶工職人です。16世紀の大地震で倒れかかったヒラルダの塔を救ったという伝承から二人の後ろにはヒラルダの塔が描かれています。救った?とりあえずここはスルーで。
さらにその奥にあった大きな聖具室の美しい漆喰装飾が施された真っ白な壁には、ぐるりと一面に芸術作品が展示され、美術館さながらの豪華な空間になっていました。正面に掲げられた十字架降架は、ペドロ・デ・カンパーニャの作品です。向かって右手には、無原罪のお宿りの彫像があります。マリアの足元を囲む小天使(の頭)という無原罪のお宿りとしてはよくある構図ですが、生首にしか見えません。「十字架降下」と同じ木の神マルティネス・モンタニェスの作品なのに・・・。
左側には聖フェルディナンド3世像。1248年にレコンキスタでセビリアを奪還したカスティーリャ王国の王様ですが、ちょっと神経質そうな容貌ですね。
建物の南東にある楕円形の部屋が参事会室です。浮き彫りの美しい装飾が施されたクーポラの一番目立つ場所に、17世紀スペイン絵画の黄金期を代表する画家バルトロメ・エステバン・ムリーリョ作の無原罪のお宿りが飾られています。天窓やステンドクラスを通して、差し込む自然光がプラテレスコ様式の見事なクーポラを神々しく照らしていました。
改修中だった王室礼拝堂の隣にあるサン・ペドロ礼拝堂には、スルバランが描いた祭壇衝立がありました。中央上部に描かれた無原罪のお宿りの聖母が穏やかな表情をしています。しかし!木の神様の彫像を見て以来、これまで見てきた多くの無原罪のお宿りで一度も気にならなかったのに、足元の小天使の生首がわたしのハートを鷲掴みしています。無原罪のお宿りを見る度に探してしまう・・・。
コロンブスの墓の反対側の身廊中央には円形のステンドグラスがはめ込まれ、巨大な王冠や聖母マリア像、聖人イシドロ像などが配された豪華な銀の祭壇がありました。
銀の祭壇に向かって右側に、鉄柵に囲まれた内陣の中に光輝く黄金の祭壇衝立(レタベル)がありました。高さ20m・幅13mもの大きな飾り壁の煌びやかさたるや柵のこちら側の遠目からでも目がくらみそうに輝きを放っています。
柵の隙間からなんとか全景を撮影することができました。中央祭壇に飾られたこの大聖堂の守護聖人である銀の聖母マリアも霞むほどに輝く衝立は、16世紀初頭最高の職人と言われたハエンのバルトロメス父子らの手による仕切り格子の間に、キリストやマリアの生涯など聖書の45場面が繊細な彫刻が施されていました。煌びやかな上に細か過ぎて、中央の聖母被昇天くらいしかわかりません。構想から完成までに80年もの月日を要した超大作の黄金衝立に用いられた金銀は、コロンブスが発見した新大陸で発掘されたものだそうです。
黄金衝立のある内陣の向かいには聖歌隊席がありました。中央奥に飾られたキリストとマリアの絵画の間には司教席があります。マホガニー材でできた117席の椅子の背壁に施された細かな浮遊彫刻がなんとも見事です。
聖歌隊席の左右には7500本ものパイプを持つ巨大なパイプオルガンが設置されていました。もはや、楽器というより建築物のスケールです。
聖堂の交差廊の天井には複雑なリブが施されていました。美しいけど埃が詰まりそうな細かさ・・・。松井棒みたいなもので掃除するんだろうか・・・なんて。
北西の角にあるサン・アントニオ礼拝堂に展示された宗教画の中でも見逃せないのが、ムリーリョのサン・アトニオ・デ・パドヴァの幻想です。絵の右下を良く見ると、跪くサン・アントニオを囲むように四角の切跡があるのがわかります。この部分だけが切りとられるという奇妙な盗難事故が起きたのは19世紀でしたが、翌年にニューヨークで発見されて無事に修復されています。お手頃サイズの絵もムリーリョの絵も他にあるというのに、どうしても欲しかったのか?意味不明です。
大聖堂の北東の角からは、ヒラルダの塔に登ってみます。鐘楼と言えば細い階段をこまねずみのようにクルクルと登らされるイメージがありますが、モスクのミナレットを改修したこの塔の中は、騎馬で登れるように設計された当時のままのなだらかなスロープになってました。ありがたいことです。70mの高さの展望台からは、セビリアの雲ひとつない抜けるような青空と美しい街並みが一望でき、なんとも爽快です。
大聖堂の南側には正方形に近い形をしたインディアス古文書館が見えています。
トリウンフォ広場を挟んだ大聖堂の向かいには、ここまでムデハル様式がプンプン香ってきそうなアルカサルの宮殿と広大な庭園が見えています。待ってろよ、アルカサル!
西側のグアダルキビル川の手前には、19世紀半ばまで120年の年月をかけて建てられたマエストランサ闘牛場があります。川の向こう岸にひときわ目立つ高層タワーは再開発の進むトリアナ地区のようです。勝手な言い分ですが、景観が崩れるような再開発にならなければいいな・・・。すぐ下には、ゴシック様式らしい聖堂の屋根とイスラムの影響を受けたオレンジの中庭が見えています。
1764年に設置された鐘は、今でも現役で時を告げ続けるスペイン最古の時計です。
聖堂北側にあるオレンジの中庭には、その名の通りはオレンジの木が生い茂っていました。大聖堂の北側にあたる正面には、ゴシック様式らしい重厚な装飾の受胎の門があります。イスラムテイストの中庭とのミスマッチがなんとも言えません。
オレンジの中庭から聖堂を見上げてみるとさっき登ったヒラルダの塔が美しく見えています。アラベスク模様が施された外壁や二連アーチ窓からうかがえるように鐘の並ぶ四角柱の部分までがイスラム支配時代に造られたミナレットで、その上にルネサンス様式のキリスト教の鐘楼が継ぎ足されています。塔の頂にあるブロンズのヒラルディーヨは風見鶏になっているんだとか。ここにきて風見鶏にする必要ありますかね?
世界遺産に登録され、こうして後世に価値を認められていますから、「後世の人に正気の沙汰ではないと思われるような大聖堂を建てよう」というキリスト教会らしからぬ思惑は、それなりに上手くいったというところでしょうか。
セビリア観光は続きます。
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