時たま、旅人

自称世界遺産ハンターが行く!旅好き会社員の備忘録

イスティクラルとジャカルタ大聖堂

 

 

イスティクラル・モスクは、モナス(独立記念塔)のある広場に面して建っていました。壁が格子状になった白亜の巨大な現代建築の建物は大きなドームがなければ普通のオフィスビルと変わらない形をしています。外壁には他のモスクで見かけるようなアラビア語の装飾文字が一切見当たりません。国の重要施設であることが窺える立地ですが、それもそのはず。イスティクラル・モスクはインドネシア国家がオランダからの独立を記念して1978年に建てた国立モスクなのです。だから、アラビア語で独立を意味するイスティクラルがモスクの名前になっているんですね。f:id:greenbirdchuro:20190625161801j:plainモスクのシンボルであるドーム屋根の直径は45m。12万人以上を収容できる規模は当然ながら国内最大、そして東南アジアでも最大、さらには世界最大規模です。世界最大のモスクがアジアにあったなんて知らなかったのですが、実はイスラム教徒人口が世界最多国のインドネシアイスラム教国家であることは知っていたものの、そこまでガッツリだったとは・・・。女性の身につけているヒジャブも中東やアフリカで見かける全身真っ黒の物々しいものと違って、アジアンテイストのカラフルなものばかりだし、観光していてもあまり気になっていなかったということもあります。

 

大きさに圧倒されながら、聖域に足を踏み入れました。f:id:greenbirdchuro:20190625182153j:plainイスラム教の7つの天国を意味する7つの入口があるそうですが、知る由もなく中央入口から、他のモスクに入る時と同じように靴を脱いで入りました。観光客専用の受付で、ゲストブックに、日時、名前、職業、国籍、宗教を記入します。不信心者ながらも一応ここは仏教徒ということで。ここからは現地の一般参拝者とは違うガイド付きの「観光客コース」になります。エアコンが完備されたロッカールームに案内され、身なりのチェックを受けました。モスクでは肌の露出はNGですが、日焼け予防のために長袖・長ズボンスタイルだったわたしは被り物無しでの入場を許可されました。

 

ここからはガイドさんと一緒に館内を回ります。

 

まずは礼拝所を見学するために上階へ向かいます。赤いカーペットが敷かれた1階は礼拝者以外は立ち入り禁止なので、その周囲を廻らす4層の回廊の一つから眺めることになります。ジャワ産だというマーブル模様の白い大理石が贅沢に使われた階段と回廊が、とても美しいです。このモスクには大理石とステンレスしか使われていないそうです。多雨な気候ゆえに腐ったり劣化するような材料を避けたのでしょう。f:id:greenbirdchuro:20190625162129j:plain

 

礼拝所を見下ろすとそこには回廊からの淡い自然光が照らす開放感ある吹き抜け空間が広がっていました。窓や戸のないオープンエアのモスクを通り抜ける風がとても涼しくて、ムスリムの皆さんが昼寝をしてしまう気持ちが理解できます。ちなみに、エアコンがあるのはわたしたち観光客が使うロッカールームだけ。イスラム教では偶像崇拝をしないので、当然ながら祭壇や像の類は見当たらず、メッカの方向を指す印が壁に描かれているだけです。赤いカーペットにひかれたラインは礼拝時に人々が並ぶためのものです。向かって左側が女性、右側が男性のスペースです。金曜礼拝の時はこの礼拝所がいっぱいになるそうです。中央の天井からは地球儀のような形のスピーカーが吊されていました。大理石で出来たモスクなので、さぞかしコーランも反響することでしょう。f:id:greenbirdchuro:20190625162343j:plain

 

天井には宇宙を想像させるような丸いドームがありました。ドームの内側は細かい菱形模様になっていて、周囲をぐるっとアラビア文字が縁取っています。ドームを支えるようにそびえる12 本のステンレス製の円柱に刻まれた縦ラインがドームと共に高い空を想起させます。このモスクを設計した建築家フレデリック・シラバン氏はキリスト教ですが、表現されたイスラム教の世界の壮大さと深遠さは異教徒の手によるものとは思えません。彼に設計を任せたインドネシア国家の寛容さもドームを大きく深く見せているのかもしれません。特に何の装飾があるわけでもなく、線だけで織りなされた美しさの中にイスラム教の真理を見るようです。f:id:greenbirdchuro:20190625162608j:plain

 

続いて、案内されたのは巨大な太鼓。太鼓の中央部分と囲いはバティック柄です。インドネシアでは、礼拝の呼びかけのアザーンの前に太鼓を鳴らすのだそうです。意外にも太鼓を鳴らすのはインドネシアのオリジナル。昔から踊りや歌の伴奏に使われてきた太鼓を礼拝に取り入れたのだそうです。確かに、ジョグジャカルタガムランに見るように太鼓はインドネシアの象徴的な楽器の一つ。このことはイスラム教が武力行使等でインドネシアに強引に入り込んだものではなくて、この国の伝統や文化を尊重しながら時間をかけて融合していったことを物語っています。他者を否定せずに折り合ったといったところでしょうか。この国のイスラム教に感じていた寛容さの理由はここにあるのかもしれません。f:id:greenbirdchuro:20190625181545j:plainちなみに肌の露出の多い服装だと右側の方のように足元までスッポリ身体を覆う茶色っぽい衣装を着せられます。それにしても、なぜ外国人というのは毎度のことながら宗教施設の観光に裸同然の出で立ちでやって来るのでしょう・・・。

 

ガイド付き見学ツアーは30分ほどで終了。建物の外に出ると、イスラム教徒たちに日々の礼拝を告げるミナレットが空高くそびえています。f:id:greenbirdchuro:20190625181704j:plain

 

赤タイルの敷き詰められた広いテラスの床には、個人に与えられる礼拝スペースを示す100㎝×60㎝の格子状のラインがひかれていました。この日は空いていましたが、きっと特別な日の礼拝では、礼拝所を取り囲む回廊や外のテラス(ココ)まで礼拝者がずらりと並ぶ集団礼拝が見られて圧巻でしょうね。f:id:greenbirdchuro:20190625181808j:plain

 

インドネシアの寛容さを表す最たるものは、イスティクラル・モスクのお隣にあるジャカルタ大聖堂ではないでしょうか。f:id:greenbirdchuro:20190626152723j:plain

 

正面からだと2本に見える白い透かしの鐘楼は後方にあるものと全部で3本が備わっています。その高さは60m。前身の教会は1810年から存在していましたが、火災によって崩壊してしまいました。現在のネオゴシック様式カトリック大聖堂が建造されたのは、モスクができるよりもずっと前の1901年のことでした。f:id:greenbirdchuro:20190626152812j:plain

 

聖堂内部は外の喧騒がウソのように静かでした。天井はとても高いものの聖堂内は少し薄暗くて、それがかえって落ち着いた雰囲気や荘厳さを強調しているように感じます。木造の礼拝用椅子にこの大聖堂の長い歴史を見るようです。f:id:greenbirdchuro:20190626152817j:plain

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国民の大半がイスラム教徒のインドネシアですが、国の憲法イスラム教以外にもキリスト教・(カトリック)・仏教・ヒンズー教儒教主要な宗教と認識し、信仰の自由を認めています。 様々な宗教的背景を持つ人々がお互いを尊重しながら調和している社会インドネシアのモットー「多様性の統一(わたし達は多種多様ですが、ひとつです)」を体現していると思います。

 

 

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