時たま、旅人

自称世界遺産ハンターが行く!旅好き会社員の備忘録

海に浮かぶ教会ガステルガチェ

 

 

バスクで外せない観光地の一つは、2014年に調査会社がスペイン人対象で行った調査で、他の名だたる名所を抑えて「自然が美しい観光名所」第1位に選ばれたサンフアン・デ・ガステルガチェです。もちろん、わたしがこんな調査の存在を知る由もありません。この長い名前の景勝地を知っているの理由はただ一つ・・・ゲーム・オブ・スローンズ」シーズン7のロケ地だからです。例えドラマファンでなくても、スペインの万里の長城ともモン・サン・ミシェルとも例えられるガステルガチェを見たらハートを射抜かれることは間違いありません。

 

 

思いつきでやってきたバスクなので、ガイド本は持っておらず(ガイド本に載ってるかどうかもわかりません)、ネットを駆使して先人の情報を頼りに行ってみることにしました。

 

バキオベルメオという街の中間にあるガステルガチェは、地図で見ると車でしかアクセス出来なさそうなへんぴな場所です。シーズン中ならビルバオから直通のビスカイバスがあるようですが、シーズンとは6月から9月のこと。そして今は5月・・・ギリギリアウト!惜しい!!とりあえず、ビスカイバスでバキオとベルメオのどちらかに向かうことにしました。より近いバキオからなら頑張れば歩けるはず?それが無理なら両方の街を行き来している乗合タクシーでアクセスするしかありません。

 

まずバキオ行きのバスの出る新市街のMoyua広場にやってきました。ところが、ここで大誤算。この二つの街ですらオフシーズンには運行便が減るらしく、乗ろうと思っていたバキオ行きのバスは実際には無いらしい。いきなり挫折か?とも思いましたが、バスの運転手さんの助けを借りて一番早く出発するベルメオ行きのバスに乗ることが出来ました。緑色のバスがこの地方の人々の足ビスカイバスです。2.5ユーロを支払ってベルメオまで出発です。f:id:greenbirdchuro:20190602215212j:image

 

バスは1時間ほど走り、ベルメオのバス停に到着しました。これで、必然的に選択肢は外国人にはハードルの高い乗合タクシーのみとなりました。バスと同じ色のバス停で2時間に1本という噂の乗合タクシーを待ちます。カフェにでも・・・とうろついてみましたが、時間を潰せそうなところは何もありません。f:id:greenbirdchuro:20190607171829j:plain

 

バス停の向かいにはベルメオ港がありました。停泊しているのは小〜中型の漁船だけで、客船らしきものは見当たらず、ここにも時間を潰せるものは無さそうです。しばらくビスケー湾らしからぬ穏やかな入江を眺めて過ごしました。f:id:greenbirdchuro:20190602212029j:plain

 

そうこうしているうちにバス停にはチラホラと人が集まってきました。様子を探りに行ったのがまずかったようで、地元のおばあさんにロックオンされてしまいました。人数が集まらないとタクシーが出発しないから何処にも行かずここにいろと言うのです。日本人が珍しいようであれこれと語りかけてきます。しかもバスク語スペイン語も怪しいわたしにわかるわけないのに、そんなことは御構いなし。途中でおばあさんの自分語りだと気が付いて、適当に相槌を打つことにしました。聞き取れたのは、おばあさんは84歳、バキオ在住、ベルメオには親戚の家を訪ねて来た、しょっちゅう来てる、ガステルガチェは天国のような場所、子供の頃にはスペイン語バスク語以外にフランス語と英語を習った!・・・ということでした。(話せるなら英語とは言わないまでもせめてスペイン語にして欲しい・・・)

 

やっと解放されたのはミニバン型のタクシーが到着した時でした。定員ちょうどの8人を乗せたタクシーはバキオに向けて出発します。曲がりくねった坂を登る度に、ここを歩かなくて良かったと心底思いました。30分ほどでガステルガチェの駐車場に到着しました。そこで途中下車したのはわたしだけ。オフシーズンのせいかほとんど人は見当たりません。

 

そこから海の上に浮かぶという教会を目指し、Google マップに従って歩き始めました。恐らくけもの道のようなショートカットもあるんでしょうが、助けを呼べなさそうなこの場所での冒険は出来ません。

 

しばらく歩くと眼下にガステルガチェが見えてきました。白波の立つビスケー湾に突き出た小さな島、堅牢な石橋でイベリア半島と繋がっていて半島状にも見えますが、あたかも海に浮いているようです。ゴールはまだ先ながら期待通りの景色に足取りが軽くなってきます。f:id:greenbirdchuro:20190602205604j:image

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バスク語で岩山の城という意味のガステルガチェの存在が認知されたのは9世紀頃だと言われています。特異な存在のためか初めて文書に登場した11世紀以降、歴史上のエピソードや海賊ネタの枚挙にいとまがありません。f:id:greenbirdchuro:20190602205623j:plain

 

スタート地点から約30分。坂を駆け下りるようにして島に続く石橋の前までやって来ました。細く険しい石階段が曲がりくねって伸びた先にある島の礼拝堂は、ドラマ開始当初からずっと想像していたゲームオブスローンズのドラゴンストーンの城にあまりにピッタリのイメージです。f:id:greenbirdchuro:20190602205556j:image 

島の頂上にある礼拝堂のオレンジ色の屋根が青い空と海にとても映えています。島の北東側には荒波の浸食で出来た岩のトンネルが見えます。ビスケー湾の岩がちな海岸線ではこのトンネル以外にも浸食で出来た洞窟やアーチをあちこちに見ることが出来ます。f:id:greenbirdchuro:20190602210147j:plain

 

島にかかる傾斜のきつい石橋で海を渡り終えると、狭くジグザグに曲がった石造りの小道の階段を登り始めます。段数200〜240段と諸説あります・・・。階段の段数に諸説って何?数えればいいだけじゃん!と思いますがスペイン人はそんな些末なことにはこだわりません。というか本気で数える気がないんですね。

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200段以上の階段を登り(スペイン人に倣って数えることはやめました)、汗ばみながら頂上に到着しました。振り返ると白波の打ち寄せる険しく石階段が海を渡る蛇のようにうねっています。夏には両側の岩だらけのビーチで水浴びをする人もいるそうです。そして礼拝堂を訪れる観光客で本家の万里の長城並みに混雑するとか。f:id:greenbirdchuro:20190602210026j:plain


ビスケー湾と周辺の複雑に入り組んだ海岸線からなる美しい景色が一望できました。f:id:greenbirdchuro:20190602210108j:plain


北東方向に突き出たマチチャコ岬の沖には、ガステルガチェと共に生物保護区に指定されている海鳥の楽園アケチェ島が見えます。地元の人がウサギ島と呼んでるのできっとウサギもいるのかもしれません。f:id:greenbirdchuro:20190602205608j:image

 

島には礼拝堂以外にも小さな避難小屋がありました。その避難小屋にはトイレらしきものがあり、その穴に向って用を足すと排泄物が島の頂上から岩壁を伝って遥か下方のビスケー湾に流れていきます・・・。人工の滝?なかなかない体験でした。定期的に清掃に来る業者さんがトイレを流す水を運んでいました。ちなみに礼拝堂には難破船から生還した船員の奉納物が収蔵されていて、中に入れるのは7・8月だけ。入場料は1ユーロだとか。f:id:greenbirdchuro:20190602205616j:image礼拝堂が建てられた正確な時期はわかりませんが、道沿いや礼拝堂の敷地から9世紀の埋葬物が発見されているので、この島が発見された9世紀頃ではないかと言われています。もちろん、度重なる破損と再建でこの建物はオリジナルではありません。一番最近だと、1978年の火災の後に1980年6月に再建したそうです。礼拝堂の鐘を3回鳴らすと願い事が叶うという伝承は知っていたので、当然鳴らしておきました。

 

わたしが訪れた2018年5月は閑散とした場所でしたが、これはかなり稀なケースでのようです。ドラマの評判も手伝って知名度が一気に上がり、半年後に訪れた人はオフシーズンにも関わらず予約を求められたそうです。無料ながら石橋のたもとの簡易窓口でチケットなるものを発券されたとか。維持管理する為の有料化には大賛成ですが、どんどん観光地化されていくと思うと少し寂しい気持ちになります。観光したわたしが言うのもなんかアレですけどね。それにしてこの神秘的な絶景をほぼ独り占めできたなんて、オフシーズンでかえってラッキーでした。

 

帰りも乗合タクシーに乗って今度はバキオまでやって来ました。砂浜なのに白波の立っているバキオの荒海です。f:id:greenbirdchuro:20190602210221j:plain

 

ベルメオよりもかなり寂しいバス停で長いこと待ちましたが、無事にビスカイバスで朝出発したビルバオ市内の広場まで帰ってくることができました。

 

帰国したらゲーム・オブ・スローンズ見てる人達に大々的に自慢しなくては・・・。

 

 

 

 

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