フィッツ・ロイに挑む後編
登山未経験者が無謀にもひとりでフィッツロイへ挑んだ話の後編です。
ポインセノットキャンプ場を過ぎて急に始まった心臓破りの坂道。
一段一段の段差の高いこと、高いこと、、、。足場も悪く、足ひねり癖のあるわたしには、トレッキングポールなしでは危険なルートが続きます。
登れど登れど岩だらけの山肌。幸いなことに、この頃には雨も小雨に変わり始めました。
怪我なんかして自力で下山できなくなったら困りますから、後から来た人に次々と道を譲りながらのゆっくり登山が続きました。「ウサギとカメ」のカメ作戦で休みなくゆっくり登り続けることにしました。
そんなわたしの後ろに女性2人を含む7人のアジア人の集団が迫ってきました。テルマエ・ロマエ風に言うと、明らかにわたしと同じ "顔の平たい族" です。パタゴニアでは日本人を含めたアジア人に会うのは初めてでした。
全員が次々に話しかけてきます。
「どこから来たの?ひとりで来たなんて偉いねえ!」
その集団の年齢はどう見ても70歳ちょっと手前くらい!驚いたことに、皆が皆、ものすごく健脚なんです。一段一段を「ヨイショ」と登っているわたしを尻目に、文字通り飛ぶようにドンドン登って行きます。
しかも、 仲間内の会話は母国語なのに、わたしには流暢な英語で話しかけてきます。
なんだ、この ”スーパーシニアズ “ は?
このスーパーシニアズの正体は韓国からの観光客。いよいよ全員がリタイアしたので、揃って念願の山登りに来た高校の同級生なんだそうです。この年代の人達が、旧友との久々の再会に、お茶や食事じゃなくって、地球の裏側まで行って登山ってすごくないですか? 体力・知力・財力・友人の全てを持ち合わせているってことですよね。。。素直に尊敬しかないです。
服の脱ぎ着による体温調整とか休憩の取り方とか初心者のわたしに色々とアドバイスしてくれました。
スーパーシニアズをペースメーカーにして登り続けていると、転がっている岩が小ぶりになってきて、いよいよゴールが近い気配がしてきました。
振り返ると、登ってくる時には必死すぎて楽しむ余裕がなかったロス・グラシアレス国立公園の景色が広がっています。
そして、ちらっと見えてきたフィッツロイの横顔。。。
さらに足を進めると・・・
着いた~!!! 最終目的地のトーレス湖!!!
フィッツロイの山頂は雲に覆われていたけど、おかまいなく何度もシャッターを切りました。
曇っていてもこの湖の色です。晴れていたらどんなにキレイだっただろうに。。。登山といえる登山は初めてだけど、はまる気持ちがちょっとわかったような、わからないような・・・
トーレス湖のほとりに座って、ホテルで作ってもらったサンドイッチを頬張りました。でも胸がいっぱいで、あまり食べられませんでした。
防水だと思って新調したリュックは、どうやら底だけが防水だったようで、バケツみたいに水が溜まってて、そのリュックの中でサンドイッチの入った袋やリンゴがプカプカと浮いていたのを見てしまったせいかもしれませんが。
(前夜に自分が起こしてしまった事件を思い出してしまったりして・・・)。
湖の前でフィッツロイにかかった雲が晴れるのをしばらく待ってみましたが、雨に濡れた体がどんどん冷えてきたので諦めて下山を開始しました。
登りと同じく、スーパーシニアズは飛ぶように駆け下りて行きました。
すっかり晴れてきた下山の途中、スーパーシニアズに言われて後ろを振り返ると・・・そこには、これが見たかった!というフィッツロイの完璧な姿がありました。
下山するのが名残惜しく、「少し下っては振り返って写真をとる」を繰り返しながら、その雄姿を堪能しました。
下山は行きとは違うルートでチャルテンに向かうことにしていたので、ちょっと回り道してカプリ湖の湖畔まで下りてみました。
チャルテンの村を眺めながら下山して、登山口まで下りてきました。
前夜から降り続いた雨で何度も心が折れそうになったけど、やり遂げた喜びで心地よい疲労感でした。
そして、明日からパイネ国立公園を1週間かけてトレッキングするんだと言いながら、ホテルに戻っていったスーパーシニアズともここでお別れ。
8時間の登山後とは思えない軽い足取りのその後ろ姿を見送りつつ、カラファテへ移動するためピックアップ場所に向かったのでした。