シルバーラッシュのその後に
この赤茶色の壁の建物は有名な壁画作家ディエゴ・リベラの生家です。現在では博物館になっていて彼が住んでいた当時の調度品や家具だけでなく、壁画作品なども飾られているそうです。残念ながら独立記念日のため閉館していました。家の大きさからするとかなり富裕だったことが伺えます。20歳以上も若い妻フリーダ・カーロも画家として有名ですが、映画にもなった波瀾万丈の人生とその才能から妻の方が有名と言えるかもしれません。
ディエゴ・リベラの生家から1〜2分歩くと幅広く長い石段が特徴的な白亜のグアナファト大学が見えてきました。子弟の教育のためにイエズス会が1732年に建設したグアナファト最初の教育機関は、変遷を経て1945年に州立大学に生まれ変わったそうです。本館へ続く石段は113段もあり、真面目に通学すれば、勉学だけでなく足腰も鍛えられますね。
国内の大学の中でも音楽や演劇といった芸術面での評価が高く、ラテンアメリカ最大の芸術・文化イベントである国際セルバンテス祭の開催でも知られています。期間中は多くの舞台・劇・文化イベントがキャンパスで鑑賞できるそうですよ。グアナファトの街並みにそぐわない新古典主義建築のデザインでかなりの議論を呼んだようですが、今ではすっかり貴重な街の観光資源になっています。
大学生に混じって息を切らしながら大学本館の石段を登るとすり鉢状に広がる旧市街の向こうにピピラの丘が見えます。こんなに遠くからでも見えるピピラ像の大きさが伺い知れます。
坑夫だったピピラは先陣を切ってスペイン軍がたてこもっていた(今は州立博物館になっている)アロンディガに攻め込み、扉に火を放って制圧したそうです。だから質素な身なりの独立運動の英雄像の手にたいまつが握られているんですね。ピピラの丘は英雄像よりもむしろ展望スポットとしての方が有名で、旧市街の中心から出ているケーブルカーで丘に上がったと思しき観光客がピピラ像の足元にびっしりと見えていました。
市場での買い物の誘惑を振り切ったわたしが、グアナファトで絶対に欲しかったもの!それは繊細な色づかいと細かい絵付けが特徴的なセルビン焼き!!郊外には1981年にハビエル・セルビン氏が始めた工房がありますが、今回は時間も車もないため旧市街の専門店に行くことにしました。親日家の奥さんと少しシャイなご主人の老夫婦が経営されているお店はリンコン・アルセナルです。写真撮影NGの店内に並べられた繊細な模様のセルビン焼きにトキメキが止まりません。網のような繊細な模様をベースに光沢のある塗料でかわいく色付けされていて、その部分が少しぷっくりと盛り上がっています。色のバリエーションも豊富でしたが、さんざん悩んだ挙句、青い線がとても印象的だったぐい呑を2つ購入しました。今も自宅で活躍中です。
再びフアレス通りに出てみると益々人が溢れ、歩くのも難しいくらいです。
フアレス通りの人混みを避けるようにウニオン公園でひと息つきます。几帳面に剪定された木が並ぶ緑の公園の中は寛ぐ人や遊ぶ子供達で賑わっていますが、通りの喧騒に比べると長閑なものでした。
ウニオン公園の向かいには1903年完成のフアレス劇場がありました。ギリシャ風のグレコローマン柱廊が目を引くこの劇場はグアナファト大学同様にセルバンテス祭の中心です。豪華なものが好きだったというディアス大統領の発案らしく、内部も含めて荘厳な造りになっていました。
フアレス劇場の前には la giganteと呼ばれる銅像がありました。giganteは巨人の意味ですが、女性を表す冠詞のlaが付いているので、デカ女ってところでしょうか。胸に子供を抱いているのか胸がいくつもついているのかわかりませんが、女性らしからぬ発達した筋肉も相まって大きさだけでない強烈な個性を放っています。街には他にもユニークな像が点在していました。
フアレス劇場の隣には、ピンクに近い赤の砂岩で覆われ、メキシコ独特のチュリゲーラ様式のファサードを伴ったサンディエゴ教会がありました。洪水被害に遭った旧教会を再建したヴァレンシア伯は銀山の所有者で、彼のような銀山主が建て主となった豪華な教会が街のあちこちにありました。かつてこの街がシルバー・ラッシュに沸いたことを物語っています。
さらに1〜2分歩くと、また外壁がピンクに塗られた教会が見えてきました。2つの尖塔と時計台を伴ったサンフランシスコ教会です。入り口を囲むバロック様式のファサードの装飾がとても細やです。
教会内部はパステル調の穏やかな色づかいと天窓から差し込む光でとても明るい印象です。天井を彩る絵画や柱に施された細やかな装飾はとても華やかでした。
一旦ホテルに戻って屋上のテラスから街並みを楽しむことにしました。チェックインした時よりも晴れた青空の下でカラフルな街並みが一層引き立ちます。
夕刻になり、だんだんと街が夕陽に染まってきました。
薄暗くなってもライトアップされたバシリカだけは煌々とした光を放っています。
そのうち、完全に夜の帳が下り、街中の家の窓から漏れる柔らかな灯りが自然な夜景を作り出しています。1546年の銀鉱脈発見から200年以上にわたって世界の銀の3割を産出してきた美しい街は今でも寂れることなく、確実にわたしを惹きつけました。
夕食のため再び階段を降りて行くと、フアレス劇場もライトアップされて華やかさが増し、今にもショーが始まりそうな雰囲気です。
メキシコビール始めはこの2本。軽い飲み口の老舗ブランドソルとキレのあるさわやかな飲み口の定番銘柄ドスエキス。
そして、ビールのお伴には新鮮なアボカドが贅沢に使われたワカモーレ。マティージョとチレが良く効いていてビールとの最強の組み合わせに手が止まりません。
メインに選んだアラチェラはメキシコ風の牛ハラミステーキでした。暑い土地で育てられるせいか、メキシコ産の牛肉は皮膚表面に脂がつきやすいかわりに肉の中にサシが入りにくく脂身が少ないのが特徴です。柔らかいのに肉らしいかみごたえがあって満足のいく一皿でした。
その日は明け方まで街中の細い路地を「VIVA!!MEXICO!(メキシコ万歳!)」と叫びながら練り歩く人々の声が途切れることはありませんでした。
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