時たま、旅人

自称世界遺産ハンターが行く!旅好き会社員の備忘録

アムステルダム国立美術館 後編

 

 

 東インド会社の全盛期、17世紀のオランダで活躍した木造帆船プリンス・ウィレム号の模型です。全長73.5m、約2000トンは当時のオランダで最大規模でした。大きさにもびっくりしますが、木造船が通算5回もバタビア(現在のジャカルタ)まで航海したということにビックリします。何故だか、なんとなくこの船に懐かしさを感じていましたが・・・実は以前、日本にもこの船の復元模型がありました。しかも実物大!1985年に長崎の旧オランダ村が、実物大の復元模型をオランダの造船所に14億で発注。観光の目玉でしたが、経営不振のため購入時の10分の1以下でオランダのテーマパークに売却されました。オランダに帰れて良かったのかもしれませんが、残念ながら2009年に電気系統のトラブルよる火災で全焼してしまったそうです。f:id:greenbirdchuro:20190612194538j:plain

 


この国立美術館には、膨大な書物や雑誌、美術書、カタログなどが収められたオランダ最古かつ最大の図書館カイペルス・ライブラリーがあります。カイペルスはここの設計者の名前ですね。ゆっくりと扉を押して、図書館の中に静かに入ってみました。柵が設置されていて本棚に近付く事は出来ませんが、窓から差し込む太陽の光が図書館全体を淡く照らしていて、歴史ある図書館らしい厳かな雰囲気を何倍増しにも感じることができます。古い本の匂いって好きな人にはたまりませんよね。f:id:greenbirdchuro:20190612194603j:plain

 

大きさ2m四方ほどのドールハウスもいくつか展示されていました。裕福な寡婦である Petronella Oortmanドールハウスは衣装や家具、壁や絵の全てが細かく繊細に作りこまれていてミニチュアとは思えないクオリティです。かなりの制作費用がかかったために、ピョートル大帝が注文を断ってきたという逸話も納得です。この中で生活している自分が容易に想像できてしまい、マンションの広告の間取りや写真を見ながら妄想するのが好きなわたしのツボにはまってしまって長く時間を費やしました。f:id:greenbirdchuro:20190612194715j:plain

 

鉤十字とスポーツというおおよそ不釣り合いな組み合わせに目を疑いますが、1936年のベルリンオリンピックのポスターです。ナチス政権下でよくも平和の祭典を開催できたもんだと思いますが、第一次世界大戦のために1916年のオリンピック開催を逃したベルリンがオリンピック開催を決めた時はまだナチスが政権を握る前でした。オリンピックはユダヤ人の祭典だと開催に難色を示したヒトラーも側近たちの説得でしぶしぶ開催に同意します。するとあっという間に持ち前の統率力を発揮してオリンピック・スタジアムや選手村、空港、道路、鉄道、ホテルの整備を短期間でやってのけました。ユダヤ人迫害政策や人権抑圧を容認できないという理由で開催権の返上やボイコットを行う国々もありましたが、どうしてもオリンピックを開催したかったドイツは、国の政策を一時的に曲げてまでも大会を成功に導こうとしました。わたしは、機能的で美しいベルリンの街が大好きなのですが、オリンピックのために突貫工事で整備を進めたにも関わらず、現代でも十分に機能しているあたりにヒトラーの計画遂行能力の高さと徹底した美意識を見る思いで、複雑な気分になります。f:id:greenbirdchuro:20190612194825j:plain

 

ナチスドイツと言えば必ずユダヤ人迫害政策がセットで語られます。17世紀のオランダ黄金時代に大きな貢献をしたユダヤ人ですが、ナチス占領下で14万人から3万人と大きく人口を減らしました。一目で強制収容所というワードが浮かんでくるこの縦ストライプの衣装を見るといつもやるせない気持ちになります。f:id:greenbirdchuro:20190612194840j:plain

 

第一印象はよく出来た面白いチェスセットだなと。でも、ナチスのものだと知ると、こんなものを作って大の大人が喜んでいたのかと思うと悪趣味に感じてしまいます。力で押した当時のナチスドイツらしい作品だと思います。f:id:greenbirdchuro:20190612194853j:plain



オランダを代表する天才画家ファン・ゴッホ「自画像」です。画家人生が10年と短いにも関わらず、ゴッホはその間に約37点もの自画像を描き残しています。印象派や浮世絵の影響を受けて作風は変化していきますが、かなりの数だと思います。よっぽど自分が好きで、現代なら自撮り好き?とも思いましたが、どうやらモデルを雇うお金がなくて仕方なくだったり、他人の肖像画を上手く描くための練習をしたり・・・ということだったようです。ゴッホは、画家になる前には画商や教師や聖職者を経験していますがどれも挫折ばかりであまり長く続いていません。この自画像のゴッホらしい独特なタッチで描かれた表情には彼の生きづらさや苦悩が見えるようです。f:id:greenbirdchuro:20190612191331j:plain

 

 「ワイク・バイ・ドゥールステーデの風車」は、レンブラントフェルメールと同時期に活躍したオランダを代表する風景画家ヤーコプ・ファン・ロイスダールの作品です。他の彼の作品と同様に低めの地平線の上に空と雲が表情豊かに描かれていて、大気に存在感があります。ライスダールは様々な風景を描いていますが、国土に起伏の少ないオランダの風景画となると、どうしても空と雲が主役扱いになってきますもんね。f:id:greenbirdchuro:20190612195011j:plain


作者不詳「ジャワの役人」。5人の役人の上半身は裸だったり、オランダ風の上着を身に着けていたりと様々ですが、下半身は共通して腰に民族衣装のバティックを巻いています。美しい柄のバティックにも心を奪われますが、長く続いたオランダの植民地支配に対する彼らのプライドを見る思いであっぱれと言いたくなる作品です。f:id:greenbirdchuro:20190612195117j:plain

 

ゴヤ「ドン・ラモン・サトゥの肖像」カスティリャで高位裁判所の裁判官だったドン・ラモン・サトゥとゴヤは友人関係でもありました。肖像画を見る限りは、サトゥは若そうですがが、この時のゴヤは76歳だったそうなので、年の離れた友人だったんですね。サトゥのリラックスした雰囲気が二人の仲の良さを伺わせます。f:id:greenbirdchuro:20190612195113j:plain



ヤン・ウィレム・ピーネマンワーテルローの戦いはこの美術館で最も大きな作品です。イギリス・オランダ連合軍とプロイセン軍が、ナポレオン率いるフランス軍ワーテルロー(今のブリュッセル近郊)で破った1815年の戦いを描いたものです。馬に乗って後ろに息子たちを従えているのが勝者の指揮官ウェリントン公爵。騒乱の中にあっても確実に彼にはオーラがありますね。この戦いがナポレオンにとって最後の戦いであったことも知られていて、時代が移り行く予感も感じ取れる気がします。f:id:greenbirdchuro:20190612191345j:plain

 

15世紀後半に活躍した初期ルネサンスのイタリア人画家フラ・アンジェリコ「聖母子」は油断すると通り過ぎてしまう小さな作品ですが、優しい表情と柔らかな雰囲気の母子を見ているとこちらまで穏やかな気持ちにさせられます。 f:id:greenbirdchuro:20190612195329j:plain

 

初期フランドル派の画家のヘールトヘン・トット・シント・ヤンス「聖家族」は1495年に描かれた作品です。作者が早世していることもあって存命当時の記録が残っていません。わたしもトット・シント・ヤンスをよく知らなかったのですが、この美術館にある彼の絵はどれもが色彩豊かで惹きつけられました。前方中央には腕にイエスを抱いたマリア、その右手にはやはり腕にヨハネを抱いたマリアの従姉妹のエリザベツ、マリアの隣にいる女性がマリアの母アンナ、後方にはマリアの夫ヨセフとアンナの夫ヨアキムの姿も描かれています。まさに聖家族なんですが、この絵は不思議な遠近感で描かれていて、見れば見るほどに、罠に囚われたように絵にはまっていきます。f:id:greenbirdchuro:20190612191336j:plain

 

海運大国だったオランダらしい展示も多くありました。f:id:greenbirdchuro:20190612195421j:plainf:id:greenbirdchuro:20190612195425j:plain

 

刀剣・銃といった武具のエリア。銃反対派の目で見ても立派な芸術作品ですね。f:id:greenbirdchuro:20190612195428j:plain

 

白い釉薬下地にスズ釉薬を用いて彩色・絵付けされたデルフト陶器は16世紀から主にオランダのデルフト周辺で生産されてきました。東インド会社によってもたらされた中国磁器の影響も受けるようになり、17世紀にはより上質で精密な絵付けのものが制作されるようになりました。白の釉薬の下地のおかげで表面に深みが加わり鮮やかな青色の発色がまるで磁器のようです。美術品と呼べるもの以外にも普段使い用の装飾の少ない陶器も多く制作されてきたので、一般家庭でも17世紀から18世紀に制作されたデルフト陶板が多く残っているようです。フェルメールの作品の中にもデルフト陶器が登場していますよね。フェルメールはデルフト出身ですからより馴染みがあるんでしょう。それにしても陶器エリアで圧倒的にテンション上がるなんてわたしも女子だなと実感します。f:id:greenbirdchuro:20190612195552j:plain

 

デルフト焼きと言えば鮮やかな青が特徴的ですが、このタイル画は鮮やかなだけでなく、色使いの多さと美しさにひかれて思わず写真に収めました。オウムが入った図柄はデルフト焼によくみられる構図みたいです。f:id:greenbirdchuro:20190612195556j:plain

 

まだまだ名作が目白押しですが、わたしのキャパシティの限界を超えてきたようなので、今回はこの辺にしておきますね。

 

みんなのアムステルダム国立美術館へ [DVD]

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アムステルダム国立美術館 (スカラ みすず美術館シリーズ)

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