時たま、旅人

自称世界遺産ハンターが行く!旅好き会社員の備忘録

巨大パピーと巨大蜘蛛のいる街ビルバオ

 

 

マドリードの混雑にちょっと疲れてきたわたしが次に向かったのはバスク州ビスカヤ県の県都ビルバオでした。f:id:greenbirdchuro:20190602203137j:image

 

今回の旅でバスク地方に足を伸ばしてみようと思ったのは旅するスペイン語というNHKの語学番組がきっかけです。2016〜2017年放送の第1シーズンで俳優の平岳大さんが旅した舞台がバスク地方で、その雄大な自然と独特に発達した文化(特に食文化)・・・かねてから絶対に行ってみたいと思っていました。

 

カンタブリア山脈とピレネー山脈に挟まれたイベリア半島の北端に位置するビルバオは地理的にバスク地方の玄関口であるだけでなく、その都市圏に北部スペインで最も多い約100万人が暮らすバスクの中心都市です。

マドリードからスペイン国鉄レンフェで5時間の旅を経て列車はビルバオに到着しました。いかにもヨーロッパの鉄道駅のホームに見えますが・・・f:id:greenbirdchuro:20190607093309j:plain

ホームに降りたった瞬間に目に飛び込んできたのは、こんなに美しいステンドグラス!f:id:greenbirdchuro:20190607091715j:imageビスカヤ県の景色だけでなく地方を象徴する産業(主に鉄鋼業、鉱業)やスポーツ、文化などが表されているステンドグラスは1948年に画家ガスパー・モンテスのデザインで設計されました。中央の時計の上に描かれているのはベゴニャ教会、そして左側にはビルバオ市の紋章にもなっているサン・アントン橋とサン・アントン教会が見えます。

そして駅には不釣り合いにも見えるこれまた巨大な顔のオブジェもありました。
f:id:greenbirdchuro:20190602203355j:plainビルバオ市街地の中心部にある鉄道のアバンド駅は、ショッピングモールやレストラン街も併設されている機能的な駅。スペインの鉄道状況を改善した公共事業・運輸大臣の名前に由来するアバンド・インダレシオ・プリエト駅という長い正式名称がありますが、地元の人は市内にある他の駅と区別してノルテ駅(北駅)と呼んでいるようです。

 

駅から徒歩10分弱のホテルにチェックインしました。外はあいにくの雨ですが、これも雨の多いバスク地方らしい気候と割り切って早速街歩き開始です。

 

一番初めに向かったのはアバンド地区のネルビオン川沿いにあるビルバオグッゲンハイム美術館です。ニューヨークのグッゲンハイム美術館の別館で、現代美術を専門としたビルバオの人気観光地の一つです。その人気の秘密は作品の数やクオリティもさることながら・・・専門家の間で「現代建築でもっとも称賛される作品のひとつ」と評される建物の外観にあるようです。アメリカ人建築家のフランク・ゲーリーが当代の最先端の技術を駆使して設計したという建物外壁は、薄く圧縮したチタニウムの無規則な局面とかなりの面積を占めるガラス窓からなっています。どの角度から見てもどこかに光が集まって全く違った表情を見せ、ユニークというべきか、奇抜というべきか、シンプルにも複雑にも見える不思議な外観になっています。

 

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しかし、その奇抜とも言える建物が霞んでしまうくらい人気なのが、入り口正面にある花で飾られた高さ12m・重さ15トンのテリア犬パピーです。このサイズはもはやパピー(子犬)ではないと思いますが・・・。f:id:greenbirdchuro:20190602203445j:plain

 

この大きくも愛らしいパピーは、もともとはシドニー現代美術館に展示されていた、アメリカのアーティスト、ジェフ・クーンズの作品です。グッゲンハイム財団が買い取り、はるばる南半球のオーストラリから北部スペインまでやってきました。どうやって運んだのか?という疑問は中がどうなっているのか?って疑問に繋がりますよね。パピーの中はスティールの骨組みで、そこに土を詰め込んで花を植えています。つまり、根のある生きた植物なので、枯れることも伸びることもあるってことです。犬をトリミングするように庭師がやってきて伸びすぎた部分を整えたりするそうです。ちなみに外から見えないだけで内部に取り付けられた散水機で水やりもしているそうですよ。5月と10月の年に2回、10日程かけて衣替え(植え替え)もあるらしく、わたしが訪れたのは5月だったので、運が悪ければ毛のないむき出しのパピーしか見れないところでした。f:id:greenbirdchuro:20190602203205j:imageかつてのビルバオは、港からビスカヤ地方の採石場で採掘した鉄鉱石を国外に輸出するスペイン屈指の工業都市でした。鉱業化の波に乗り、隣接する自治体を次々と併合して急速に人口を増やしたビルバオも1990年代以降の産業衰退には抗えませんでした。そこで、都市再生を図り、経済活性化の一環としてこの美術館を開館させます。いまや地域創生にもっとも成功した都市のひとつであるビルバオのランドマークは街が地域創生に成功した証でもあるんですね。

 

美術館の裏の川沿いにはママンと名づけられた巨大な蜘蛛のオブジェがそびえていました。下から見上げると大理石らしき白い卵を抱えているのがわかります。作者はフランス出身のフェミニズムアートの代表的女性作家ルイーズ・ブルジョワです。卵を孕んだ巨大な蜘蛛は攻撃的ながら強い母性愛を象徴していて、彼女が幼少期に亡くした母への郷愁をも表しています。

ごめんなさい、作品の意図を知った上でも、リアルすぎて気持ち悪いです。f:id:greenbirdchuro:20190602203458j:plainちなみに、このリアルな蜘蛛のオブジェはビルバオだけでなくニューヨークにあるグッゲンハイム美術館本館を初め、ロンドンの国立近代美術館、ロシアのエルミタージュ美術館など世界各地に9体もあるようです。六本木ヒルズのママンを見た人も多いことでしょうね。

 

さて、ネルビオン川に沿って散策を続けると市庁舎の橋という名前の、その先に何があるか完全にネタバレしている橋がありました。 橋の先に見えるビルバオ市庁舎は、サン・アグスティン旧修道院の跡地にホアキン・ルコバ の設計で1892年に建てられました。正面からは見えませんが、この裏には、ここ10年以内に建設された現代的な新市庁舎がありました。f:id:greenbirdchuro:20190602203548j:plain

 

市庁舎の前にある直径6m・高さ8mの鋼鉄のオブジェは、バスクの著名な彫刻家ホルヘ・オテイサの作品です。作品名「Variante Ovoide de la Desocupación de la Esfera」を訳してみましたが全く意味不明です。そこで彼の作風について調べてみると・・・鉄などの重量感あふれる素材を用いて、幾何学的な面を複数組み合わせて立方体や直方体の枠内に収め、求心性を保ちつつも開放性を暗示し、鉄素材の緊張感を引きだした・・・わたしのような薄っぺらい人間の理解の範疇ははるかの超えているようです。いずれにしろ彼の作品が抽象的なことは間違いないようなので、わたしごときが無理に解釈する必要はなし!と判断しました。f:id:greenbirdchuro:20190602203229j:imageバスク芸術の伝統を侮辱している!とグッゲンハイム美術館の建設に反対したオテイサは、自身の作品が美術館に展示されることを拒み、全作品をナバーラ州政府に寄贈してしまいました。たとえ自分が死んだ後でも嫌だ!って意思の表れだと思うんですよね。かつてのビルバオの象徴でもあった鉄鋼を素材とすることは彼なりのバスク伝統への拘りだと理解できます。作品の近くに立ってみてわたしが感じた緊張感(ホントか?)の正体は、鉄鋼素材だけではなく、頑固なオテイサ師匠の意地や思い入れだったのかもしれません。

 ビルバオ街歩きは続きます。

 

 

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