ジョン・レノンとフランツ・カフカ〜トラムで巡る百塔の街〜
トラムの旅は続きます。
カレル橋を渡ったマラーストラナ地区の南側に一面が落書きされたカラフルな壁があります。この壁、本人がプラハを訪れたことは一度もないというのにジョンレノンの壁と呼ばれています。
元々はなんの変哲もない白壁。ジョンレノンが亡くなって以降、その白壁に彼への哀悼を示す人々が彼の肖像画やメッセージを書き込み続けてきました。ジョンの思想に共感した落書きで埋め尽くされた壁は、共産党体制の政府や警察によって白く塗り替えられましたが、再びすぐに落書きで埋め尽くされたそうです。
こんないたちごっこが延々と繰り返されたのは、チェコ国民が単にジョンを愛していたからというだけではなくて、共産党体制によって厳しく規制されていたプラハ市民の自由を渇望する心の叫びを表現する抵抗手段だったから・・・。なかには、本当にただの落書きも混じっていましたけど、チェコの人達にとって自由の象徴の壁ですから、それも自由で構わないんでしょうね。
そして、代表的なプラハ文学作家と言えばフランツ・カフカです。カフカの大ファンで彼の影響を大きく受けた村上春樹が敬意の念を込めて「海辺のカフカ」を書き、カフカ賞を受賞したのは有名な話です。そのカフカのプライベートや当時のプラハの街に関する展示がされているのがカフカ博物館です。その入り口のカフカの「K」のおかげで簡単に辿り着けました。カフカと交流のあった女性についての展示もあり(要するに女性関係ってことだと思うんですけど・・・)そういうとこさすがですね、カフカ先生。
旧市街にも生前の貴重な資料を展示しているフランツ・カフカ展示館がありました。
フランツ・カフカはユダヤ人で、短い人生のほとんどをユダヤ人街で過ごしました。(ちなみに、プラハ城の黄金小道で執筆していた時期もあったようです。)彼の生家周辺はユダヤ教のシナゴーグや集会所が多く集まっています。ユダヤ人街って独特な雰囲気があるんですよね、お行儀よくしなきゃいけないような。そのユダヤ人街のシナゴーグのそばにはユニークなカフカ像がありました。顔の無い巨人がカフカを担いでいる不思議な像は、いかにも朝起きたら虫だったという「変身」を書いたカフカっぽい気がします。村上春樹さんが受賞したカフカ賞のトロフィーは、この像を小さくしたものなんだそうです。ちょっとオブジェとして欲しい気がします。
ギザギザのレンガの屋根が印象的な旧新シナゴークは1270年ごろに建てられたヨーロッパ最古のユダヤ教会です。外から見ても広く見える屋根裏にはユダヤ人を守るためにラビに命を吹き込まれて暴れまわった泥人形「ゴーレム」が役目を終え、元の泥人形に戻されて眠っていると伝承されています。心配性のラビが屋根裏に続く階段を外したので外から梯子で窓にアクセスするしかないという事実が伝説にリアリティを与えていますが、真偽のほどはわかりません。それにしてもゴーレムって物語やゲームのキャラじゃなかったんですね。
80歳の師匠が半世紀前に訪れた時は人気がなくて寂しい場所だったというユダヤ人墓地。「人ごみに疲れたらお勧めだよ」なんて言われてきたのに・・・。なんと、遊園地のように入場券を買う人の列ができる観光地となっていました!敷地内には墓碑が密集し、よく見ると墓地の地面が周囲の市街地よりも数m高く盛り上がっています。これは、古いお墓の上に何層も新しいお墓が積み重なっているから。長年の墓地不足に悩んでいたユダヤ人。新たな土地購入の許可は簡単には得られず、かと言って信心と先祖への敬意が邪魔して古い墓を壊すこともできず・・・墓地を横に広げるがダメなら縦に重ねるしかない・・・ということで、最も多い所では12層にもお墓が重なってるそうです。どおりで、墓地の周りを高い塀で囲んでいると思った!入場券買ってない輩にタダ見させないぞ!ということではなかったようです。
トラムから見えて思わずシャッターを切ったナショナーレ・ネーデルランデン・ビルの通称は、ダンシング・ハウス(踊る家)。その名の通り、ダンスを踊っているカップルに見えました。ちなみにくねっている方が女性のようですが、そういう目で見るとセクシーに見えないこともないです。歴史ある百塔の街プラハでは、斬新すぎて受け入れられるまで時間がかかったようですが、今では立派なプラハの観光名所の1つですね。
今回のプラハ訪問で一番残念だったのは、ミュシャのスラブ叙事詩が見れなかったことです。最近まで日本に貸し出されていたあの特大サイズの作品、プラハに帰ってきているのでここで見れると期待していました・・・。ところが、今のプラハには適切に管理しながら展示できる場所がなくて、文字通りお蔵入りしてるそうです。しかも、ミュシャの子孫はプラハ市内での展示を希望していたのにスラブ叙事詩が他の国に出張してたのがお気に召さなかったようでややこしそうでした。でも、あれだけの作品ですからいずれまた陽の目を見るはず!でないと勿体ないですものね。それまでのお楽しみ・・・ですね。